大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(行ツ)88号 判決

上告人

石川木材株式会社

右代表者

石川勇

右訴訟代理人

西田信義

被上告人

下関税務署長

齊藤芳一

右指定代理人

貞家克己

外七名

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人が上告会社の昭和三七年七月二六日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税等につき昭和四〇年一二月一三日付でした更正処分を取り消す。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人西田信義の上告理由第一点について

所論は、要するに、原判決には法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの。以下同じ。)三二条の解釈適用を誤つた違法があるというのである。

ところで、法人税法三二条が青色申告にかかる法人税につき更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものであり、したがつて、それはまた、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものである。右のような理由附記制度の趣旨にかんがみれば、帳簿書類の記載を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、更正にかかる勘定科目とその金額を示すほか、そのような更正をした根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要すると解するのが相当である(当裁判所昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、同昭和三七年(オ)第一〇一五号同三八年一二月二七日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一八七一頁、同昭和四〇年(行ツ)第五号同四七年三月三一日第二小法廷判決・民集二六巻二号三一九頁、同四三年(行ツ)第六一号同四七年一二月五日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号一七九五頁参照)。

そこで、本件をみるに、原審の適法に確定するところによれば、上告会社は、青色申告の承認を受けた法人であり、昭和三七年七月二六日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税について確定申告をしたところ、被上告人はこれを更正したが、その更正通知書には、更正の理由として、「土地評価減一、三〇八、五一二円。北九州市八幡区本町五丁目秋田商会木材株式会社より譲り受けた下関市幸町八の三宅地67.89坪の譲り受け価額が時価に比し著しく低い価額であり、時価との差額は贈与を受けたものと認められるから評価減をなしたものとして益金に加算する。時価二、二四三、四一五円。譲り受け価額九三四、九〇三円。差引一、三〇八、五一二円。」と記載されていたにとどまるというのである。右の記載によれば、本件更正処分は、上告会社が秋田商会木材株式会社から譲り受けた本件土地の譲受価額が時価に比し著しく低額であるから、その差額は贈与を受けたものとして益金に加算すべきであるとしてなされたものであることがうかがえるのであるが、右更正の基礎となつた本件土地の時価がいかなる根拠、基準に基づいて算出されたものであるのかを知ることは全く不可能であるから、右の程度の記載では、理由としてはなお不十分であつて、法の要求する理由附記があつたものということはできない。それゆえ、本件更正処分に右違法のあることを理由としてその取消しを求める上告会社の本訴請求は、正当として認容すべきものである。原判決が前記程度の理由の記載をもつて法の要求する理由附記として欠けるところがないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであつて、論旨は理由があるものといわねばならない。そして、原判決の右違法はその結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、上告会社の請求を認容することとする。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊 本林讓)

上告代理人西田信義の上告理由

第一点 原判決は、法人税法第三二条(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの――以下、単に法人税法第三二条という)の規定の解釈、適用を誤つた法令違背があり、この法令違背は、原判決に影響を及すことが明らかである。

一、原判決は、法人税法第三二条所定の青色申告に対する更正処分に附記すべき理由について、最高裁判所昭和三八年一二月二七日第二小法廷判決を引用して青色申告の制度の建前上納税義務者にその備付と記帳が義務づけられている一定の帳簿、書類との関連において、いかなる理由によつて更正するかを明記することを要するとし、附記理由の記載の限度として納税義務者にどのような点において、いかなる金額の更正処分がなされたかを知らせ、これに対する不服の申立をなすべきかどうかの判断の資料を与え得る程度をもつて足りると解するを相当とするとしている。

そして、原判決は、本件再更正処分通知書の附記理由として、「土地評価減一、三〇八、五一二円。北九州市八幡区本町五丁目秋田商会木材(株)より譲り受けた下関市幸町八の三宅地67.89坪の譲受け価額が時価に比し著しく低い価額であり、時価との差額は贈与を受けたものと認められるから評価減をなしたものとして益金に加算する。時価二、二四三、四一五円。譲り受け価額九三四、九〇三円。差引一、三〇八、五一二円。」と記載されており、この程度の記載をもつて、本件再更正処分の具体的根拠を明らかにしたものとして、適法な理由附記があつたものと認定している。

二、しかるに、元来、法人税法第三二条の規定は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与える趣旨に出たものであるから(前記最高裁判決、最高裁昭和三八年五月三一日第二小法廷判決、同昭和四七年三月三一日第二小法廷判決等)、原判決の適示の如く、単に、納税者にどのような点において、いかなる金額の更正処分がなされたかを知らせるのみでは、更正処分の理由として不充分である。

即ち、本件再更正処分は、いかなる理由で課税対象になるのか、その法的根拠(法人税法何条を適用するのか)は示されていない。しかも、これは、第一回更正処分に対する上告人の異議申立、審査請求および第一回の更正処分取消訴訟事件において、何故、時価との差額を贈与を受けたものと認めるのか、何故、評価減をなすのか、また、これを益金に加算するのか法的根拠を明示するよう、求めているのであるから本件再更正処分の附記理由においても、これを明らかにすべきであつた。右法的根拠の明示は、もとより租税法定主義より、最も、基礎的基本的なことであり、被上告人はこれを附記理由として記載すべきは、当然のことであり、また、前記最高裁の判例の趣旨である更正処分の合理性の担保、納税者に不服申立の便宜を与える点からいつても、これを明らかにするのは当然のことである。

また、土地の評価についても、いかなる根拠、基準にもとづき、時価を算出したのか、そして、いかなる価額が、時価に比して著しく低い価額であるのか、前記判例の趣旨より、更正処分の附記理由として具体的に記載すべきである。特に上告人は、第一回の更正処分に対する不服申立、同取消訴訟事件において、本件土地の下関市における固定資産税台帳の昭和三七年、昭和三八年度の評価は、いずれも、六〇四、三九〇円であり、これを上廻る譲受け価額である九三四、九〇三円が、何故、著しく時価に比して低い価額であるのか、本件土地は第三者が占有しており、上告人が直ちに、使用できない状況にあつたことが、右評価に如何に関連するか、もともと、本件土地のみの譲受けではなく、前記北九州市八幡区に本店ある訴外秋田商会木材株式会社(以下訴外会社という)の下関地区の営業権の一環として譲受けたことなどを主張、立証しているのであるから、更正処分の理由附記が納税者の不服申立の便宜を与え、また、反面、納税者を納得させる趣旨である以上、被上告人は、本件再更正処分にあたり、この点につき、前記同様その理由を開示すべきである。

なお、原判決においても更正処分の附記理由につき納税者の不服申立の判断資料を与えるためと解しながら、単に、どのような点において、いかなる金額の更正がなされたかを示せば足りるとするが、それだけでは、不充分であつて、前記の如く、その資料を具体的に提示したとはいえないのである。

三、従つて、本件再更正処分は、理由附記の点において、違法があり、取消事由が存する。〈以下省略〉

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